イラストレーターの浦野周平です。
前回、イラストの依頼の仕方についてのブログを書きましたが、今回はその取り扱いについて。
※ご指摘を頂き一部訂正をいたしました。誠にありがとうございます。
お仕事でよく聞かれる事のひとつに「著作権を買い取りたい」というものがあります。著作権には展示権や譲渡権、貸与権etc…色々なものが含まれているのですが、ここではそれぞれの説明は省きます。簡単に言うと著作者には著作物を好きに発表したり貸し出したりする権利があるわけです。
そこで、『イラストレーターにお金を出してせっかく作った物だから自由に使いたい』という理由から『著作権を買い取りたい』ことになるわけです。ここまで読むと至極真っ当な意見です。
ところがここでイラストレーターは渋ってくるわけです。『著作権買取りはご遠慮ください』と。
なぜでしょうか?わがままだからでしょうか?
それはイラストレーターをタレントと置き換えてみると分かりやすくなってきます。
「フリーのイラストレーターがタレント気取りかよ!」とか言わず聞いてください。
あるタレントが広告用に写真を撮ります。クライアントはお金を払ってそのタレントを起用するわけですから、もちろん自社広告用にさまざまな媒体を使って使用するわけです。そこで「今回の著作権(この場合は肖像権など)を買い取りたい」となった場合、そのタレントは今後、競合他社の仕事が出来なくなってしまう上、どこで自分の写真が使われるのかの把握が難しくなってしまいます。クライアントの事業が多岐にわたるほど、タレントの活動の幅は競合排除のルールに従い狭くなってしまいます。
「別にうちは競合排除のルールは決めていないよ?」となっていても、競合他社が気にすることもあるので難しい問題なわけです。
そこでタレントは所属事務所とクライアント間で「写真をこの期間で、どの媒体に出すか」といったことを取り決め、書面を作成し、『利用許諾(著作物利用許諾)』を行うわけです。
イラストレーターも同じく、利用許諾契約(著作物利用許諾)を結び、媒体や期間などの使用範囲を決めることによって、今後お仕事のできる幅を制限されることなく事業が出来るわけです。
これが著作権の買取りに対してイラストレーターが渋る大きな理由の一つです。
もうひとつ、『著作者人格権』というものが著作者にはあります。ざっくり言うと『著作者の人権』みたいなものでしょうか。「描いたものを著作者の人格を否定するような改変をしないでね〜」とかもこれに含まれます。
イラストレーターとしてお仕事をしていると色々な契約書を交わすことになるのですが、そこでたびたび「著作者人格権を行使しない」と書かれている契約書を目にします。サイズを変えて使いたいとか、デザインに合わせてちょっと変えたいといった際に「『著作者人格権』にひっかかるのでは?」というクライアントの危惧から書かれているのだと思います。
「人権を歪めるような使い方するわけないでしょ。」とクライアントが思っていても、ここでもイラストレーターは渋るわけです。ここにもちゃんとした理由があるためです。
『著作者人格権』は他人に譲渡することは不可能で法的にも認められないからなんです。(著作権法59条)
ではせっかくお金を出して制作したイラストを色々な媒体に使いたい場合はどうすればいいのでしょうか。
上のタレントの例と同じく利用範囲や期間、改変のルールを決めて『利用許諾契約書』を作成し『利用許諾』の契約をすればいいんです(※覚書、確認書でも可)。『著作権の買取り』や『著作者人格権』を持ち出さなくても対応が可能なことは業界内で意外に広まっていません。
現場の担当者さんでも知らない人が多く、「法務の人に聞いてみたら著作者人格権の部分、あっさり削除できた」という事例が実は多いです。なので、『著作権の買取り』『著作者人格権の不行使』について話すとイラストレーターの顔が雲るのはこのような事が理由なわけです。わがままとかでは無いんです……。
現場からは以上です!
イラスト制作のお問い合わせ
イラストレーター浦野周平へのお問い合わせはこちらからお気軽にどうぞ。